クマ母子との遭遇
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クマと遭遇
念願の自動車免許をとりたての頃である。初めて乗るマイカーを駆って、テストドライバー気分で遠出に出た。市街地を通り抜け、やっとの思いで、中国山地にさしかかった。広島と島根の県境を縫うように走り、極めて起伏の激しい道に入った。
余りの静けさに、休憩を兼ねて、車を降り、カメラを片手にその辺を散策していた。聞こえるのは小川のせせらぎの音。シーンと静まりかえっていた。日頃、見ない風景が一幅の名画のようにみえる充実感に浸っていた。
ポットに熱いコーヒーを持参。おもむろに、そこに座り込んで飲んでいた。この幸せ感は、何にもかえがたいものと、思いに耽っていたその時、その辺のクマザサのあたりから、ゴソゴソと音が聞こえ、そこに実に可愛らしいクマの子が現れ、自分の方をじっと見ているではないか。
可愛らしさに手を差し伸べ、「来い、来い……」と呼んでいた。立ち上がってみると、何と100メートル後方に親らしきクマがこちらを見ていたのである。
クマの遭遇した恐ろしい体験を聞かされていた自分。ボンネットをちぎられたとか、ぶっつけた車の方がつぶれてしまった等々。生きた心地はしなかった。
それからどうやって車に戻ったか覚えていないが、ドアを開けるのももどかしく、一目散に逃げるつもりだったが、バックするつもりが前へ進んでいた。ますます、母クマとの距離が縮む所を、どうやって、ギアを入れたか分からないが、必死で里に下りてきた。
この事件(?)が、運転の自信がつくキッカケとなったことは言うまでもない。
後日、怖いもの見たさに、現地を訪れたがクマの姿はなかった。あれから三十年余、未だに山道を通ると、あの恐怖のドライブが蘇ってくる。


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